「うーん、マイボトルって言った方がいいかな? なくなったらまた補充する。直営店でね。もちろん使い捨て容器もあるけど」
「じゃあ、化粧水とかなくなったら、そのたびに店にいかないとダメなんですか?」
「そう。だからまだ京都とか関西中心部と関東近郊でしか出回ってない。でもね、通勤経路上に店があるっていう女性にはかなり人気みたいで、店舗増やして欲しいって声も多いみたい。容器持って行けば洗ってくれて、また綺麗に入れてくれる。化粧品の容器って、以外と捨てるの面倒だからねぇ〜」
今のご時勢、ゴミ分別は当たり前だから、と肩をすくめる。
「でも、いちいち店に行く方がめんどくさそう」
「実はね、それが意外とウケてんのよ」
「はぁ?」
「肌に手間ヒマかけてる。自分は頑張ってる。覇気の無いダラけた生活なんて送ってないんだって、そんな気になるんだってさ」
そういうモノなのか?
「コンセプトは"優しい自分"。容器のリサイクルは今流行のエコライフに通じるでしょ。仕事で疲れたお肌に化粧水を使うたびにさ、地球に優しい自分を実感して幸せを感じて、ホッと安らぎましょうってワケよ。まぁ ようは自己満足なんだろうけど、今の世の中、優しさに飢えてる人は多いからね」
井芹はグイッと顔を近づけてくる。
「動かないでねぇ〜」
そう言って、なにやら白いクリームを……
それは何でしょう?
などと質問する隙も与えられず、美鶴はただされるがままにアレコレとなされていく。
「おぉ さすが十代。ピチピチだねぇ〜。化粧荒れもしてないし、これなら小窪さんの前でも大丈夫なんじゃないかなぁ〜?」
「小窪さん?」
「小窪青羅さん。Sera・Kの代表」
つまり、霞流慎二の母親の友人。
化粧品を扱っている人なんだから、人の肌の良し悪しには厳しい目を持っているのだろう。
だがまさか、化粧などをするハメになるとは。
でもこんな服着るんだから、やっぱ化粧もしなくちゃならないのか?
いまだ状況に馴染めない美鶴の背後で、突然の奇声。
「あぁ〜っ!」
なっ!
「なんですかっ!」
釣られるように問いかける美鶴の髪を、一房摘む。
「髪の毛、痛んでるっ!」
鏡越しに睨みつける。
「ドライヤー、バジバシかけてるでしょ?」
「どっ ドライヤーなんて、使ってませんけど……」
だって、電気代がもったいない。
「じゃあ、バスタオルねっ?」
グイッと顔を覗き込まれては、嘘はつけない。
「はぁ」
「ゴシゴシやったらダメだって、言ったのにぃ〜」
美容師としては許せないのだろう。さすがプロ。
不満そうに髪の毛をクイッと引っ張りながら、それでも手際よく化粧を施していく。
もはや半分放心状態のまま、化けていく己の顔を凝視するしかない美鶴であった。
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